東京地方裁判所 平成2年(行ウ)240号 判決 1992年12月03日
原告
中田一夫
外五六名
原告兼その余の原告五八名訴訟代理人弁護士
梓澤和幸
原告五九名訴訟代理人弁護士
岡崎敬
同
村山裕
被告
本多良雄
右訴訟代理人弁護士
田中義之助
同
北澤和範
同
木下健治
同
田中誠一
同
田中修司
主文
一 本件訴えのうち、被告に対し金四億四九八三万円及びこれに対する平成三年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を東京都国分寺市に支払うことを求める訴えを却下する。
二 原告らのその余の訴えに係る請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、東京都国分寺市に対し、金六億二五二四万〇三七六円及びこれに対する平成三年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告らは、東京都国分寺市(以下「国分寺市」という。)の住民であり、被告は、後記の同市による売渡し及び国分寺市土地開発公社による売渡しの当時同市の市長であった。
2 市の財産の処分
国分寺市は、澤田幹雄に対し、平成二年三月三〇日同市の所有する別紙物件目録一記載の土地(以下「甲土地」という。)を代金八四五八万九六二四円で売り渡した(以下、右売渡しを「市による売渡し」という。)。被告は、国分寺市長として、右の契約を締結した。
3 公社に対する監督権の不行使
(一) 国分寺市土地開発公社は、国分寺市が公有地の拡大の推進に関する法律(以下「公有地拡大法」という。)一〇条一項に基づいて設立した土地開発公社である。
同公社は、平成二年二月六日矢島啓幸(以下「啓幸」という。)に対し、同公社の所有する別紙物件目録二記載の土地(以下「乙土地」という。)を代金一億六〇〇五万〇二四〇円で、矢島きよ子(以下「きよ子」という。)に対し、同公社の所有する同目録三記載の土地(以下「丙土地」という。)を代金一億一〇一二万六三二〇円で、それぞれ売り渡した(以下、右各売渡しを併せて「公社による売渡し」という。)。
(二) 被告は、国分寺市長として、同公社に対し、その監督権限を行使して公社による売渡しを差し止めることをしなかった。
4 市の財産処分の違法
地方自治法二三七条二項は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決がある場合でなければ、適正な対価なくしてこれを譲渡してはならない旨を定めているところ、右「適正な対価」とは一般に市場価格(時価)をいうものと解されており、右規定を受けて、国分寺市公有財産規則(昭和四三年一〇月五日規則第一六号)三九条は、財産の取得、管理及び処分に関する価格又は料金については、適正な時価により評定した額をもって定めなければならない旨を定め、地方自治法の右規定にいう「適正な対価」とは「適正な時価により評定した額」をいうことを明らかにしている。
しかるところ、市による売渡しは、以下のとおり、条例又は議会の議決がある場合でないにもかかわらず適正な対価によらないでされたものであるから、違法であり、被告のした契約の締結は違法な財産の処分に当たる。
(一) 議会の議決を経ていないこと
(1) 地方自治法が、適正な対価なくしてされる財産の譲渡につき議会の議決を要することとし(同法二三七条二項)、かつ、これを議会の権限として明示した(同法九六条一項六号)趣旨は、かかる財産の譲渡をすることを議会に明示させ、議会においてこれが地方公共団体の利益を害しないものであるかどうかを慎重に審議させ、もって、地方公共団体の財産が危うくされることを議会の民主的統制により防止しようとすることにあると解すべきである。
しかして、議会が右の議決をするには、適正な対価によらない場合であってもなお公益上財産を譲渡することが真に必要、適切であるかどうかの判断をすることを要するから、かかる判断のために必要な資料は議会に示されていなくてはならないものというべく、そうであるとすれば、地方自治法二三七条二項の議決があったとするためには、議決の前提として、譲渡に係る財産、譲渡の種類、相手方、数量及び金額並びに適正な対価によらないにもかかわらずこれを譲渡すべき必要性等を具体的に特定した譲渡に係る財産ごとの個別の議案が議会に提出され、これについて議決がされることを要するものと解すべきである。
そして、「地方自治法の一部を改正する法律(地方開発事業団関係を除く。)の施行について」(昭和三八年九月一〇日自治乙行発第三号各都道府県知事あて自治事務次官通達、以下「本件通達」という。)第二の二エによれば、右の地方自治法九六条一項六号の「議決」について「個々の事案ごとに議会の議決を経るものとしたこと」とされており、これによれば、結局譲渡に係る財産ごとの個別の議案について議決を経なくてはならないことになるから、地方自治法の右規定を右のように解釈すべきことは右通達によっても明らかというべきである。
(2) ところで、地方自治法二三七条二項の議決を求める議案の提案権は地方公共団体の長に専属するものと解すべきであるところ、被告は、国分寺市長として、市による売渡しにつき右の議決を求める個別の議案を提出していない。このことは、被告自らも、また同市の助役も、同市議会での発言において認めたところである。
したがって、市による売渡しは、地方自治法二三七条二項の議会の議決を経ていないものというべきである。
(二) 適正な対価によらないこと
右2のとおり、市による売渡しにおける甲土地の価格は、八四五八万九六二四円(一平方メートル当たり五三万六六〇〇円)とされたものであるところ、右土地の当時の時価は二億六〇〇〇万円(一平方メートル当たり一七〇万円)を下らない。したがって、市による売渡しは、少なくとも時価を一億七五四一万〇三七六円下回る価格によってされたこととなるから、適正な対価によらないものというべきである。
5 公社に対する監督権の不行使の違法
(一) 公有地拡大法は、地方公共団体が公有地の拡大を計画的に推進して地域の秩序ある整備や公共の福祉の増進を図るため、公有地となるべき土地の先行取得等を目的とする土地開発公社を設立することを認めたが、その反面において、土地開発公社がこれを設立した地方公共団体(以下「設立団体」という。)の財産を脱法的に利用、処分することにより、地方公共団体の財政的基盤の危殆化や財務運営の不公正を防止するための諸般の法制度の趣旨が没却される虞も生ずることとなる。
そこで同法は、以下のような規定を設けて設立団体に土地開発公社に対する各種の監督権限を付与し、もって、実質上土地開発公社を、これを設立団体の管理下に置くこととしている。すなわち、土地開発公社の定款を定め、又はこれを変更するには設立団体の議会の議決を経て、設立団体が市町村である場合にあっては都道府県知事の認可を受けなければならないこと(同法一〇条二項、一四条二項)、土地開発公社の役員である理事及び監事は設立団体の長が任命すること(同法一六条一項、二項)、設立団体の長は、右役員に職務上の義務違反があると認める場合等にはその役員を解任することができること(同条三項)、土地開発公社は、毎事業年度、予算、事業計画及び資金計画を作成し、当該事業年度の開始前に設立団体の長の承認を受けなければならず、これを変更しようとするときも同様とすること(同法一八条二項)、土地開発公社は、毎事業年度の終了後二か月以内に事業報告書等を作成し、これを設立団体の長に提出しなければならないこと(同条三項)、以上の規定が置かれており、その基盤の上に立って、設立団体の長は、土地開発公社の業務の健全な運営を確保するため必要があると認めるときはこれに対しその業務に関し必要な命令をすることができるものとされ(同法一九条一項)、土地開発公社に対する包括的、絶対的な監督権限を付与されている。
そうであるとすれば、設立団体の長は、土地開発公社が公有地拡大法その他の法令又はその定めた業務方法書の定めに違反する行為をしようとするときは、右の命令を発してこれを差し止めるべき義務を負うものと解すべきである。
(二) しかして、公社による売渡しは、以下のとおり、公有地拡大法三条二項、国分寺市土地開発公社業務方法書一一条に違反し、違法である。
(1) 公有地拡大法三条二項は、土地開発公社は、その設立の目的に従い、公有地となるべき土地を確保し、これを適切に管理し、地方公共団体の土地需要に対処し得るように努めなければならない旨を定めている。
一方、国分寺市土地開発公社の定款によれば、同公社の運営に関し必要な事項は、同定款に定めるもののほか、業務方法書の定めるところによるものとされ(同定款一八条)、更に、同定款及び業務方法書に定めるもののほかには、規程の定めるところによるものとされており(同定款二五条)、これによれば、業務方法書は、定款によってその制定が予定され、定款に準ずる性格を有するものであり、内容的には、同公社の事業運営が、公有地拡大法、地方自治法等の定める地方財政に関する諸原則の規律に従うことを確認した自治規範というべきものであるから、これに違反する公社の行為は、少なくとも内部的には違法とされるべきである。
しかして、同公社の定めた業務方法書は、右の公有地拡大法三条二項の趣旨に従って、公社が取得した土地の処分は、市、国、地方公共団体、その他の公共的団体へ譲渡するものとする旨を定めており(同業務方法書一一条)、これに、公社が譲渡する土地の価格は取得原価に経費を加算した額とすることが原則とされていること(同業務方法書一二条一項)を併せてみると、業務方法書は、同公社がその取得した土地を一般の私人に譲渡することは予定しておらず、かかる譲渡は、公有地拡大法三条二項、同業務方法書一一条に違反して違法となるものと解すべきである(なお、同公社における実際の運用をみても、公社の所有する土地を私人に代替地として譲渡する必要が生じた場合においては、原則として、一旦同市がこれを右の取得原価に経費を加算した額の価格で買い受けた上、私人に時価で転売することとされてきた。)。
(2) しかるところ、公社による売渡しの相手方である啓幸及びきよ子は、いずれも、一般の私人であり、業務方法書一一条所定の者のいずれにも当たらない。したがって、公社による売渡しは、公有地拡大法三条二項、同業務方法書一一条に違反し、違法というべきである。
(三) そうすると、被告は、国分寺市長として、同市土地開発公社の違法な行為である公社による売渡しを差し止めるべき職務上の義務を負うにもかかわらず、これを怠ったものであり、かかる業務の懈怠は、後記のとおり、それが同市の得べかりし利益を失わせたものであることに鑑みると、同市の財産の管理を違法に怠る事実に当たるものというべきである。
6 責任
(一) 被告は、市による売渡しが右4のとおり違法であることを知り、又は知りえたにもかかわらず、国分寺市長としてこれに係る契約の締結(支出負担行為)をしたのであるから、これによって同市に生じた損害を賠償する責任を負う。
(二) 国分寺市土地開発公社は、同市との緊密な連係のもとにその業務を運営することとされており(業務方法書二条)、実際にも、同公社の役員及び職員は、すべて同市の職員がこれを兼ねており、それらの者は同公社からは給与を受けておらず、また、同公社は独立した事務所を有しないのであって、これらのことに鑑みると、同市と同公社とは実質的に一体をなすものであり、被告は、公社による売渡しの事実とこれが違法であることとを知っていたものというべきである。そうすると、被告は、それにもかかわらず、同市長として、同公社に対し公有地拡大法に基づき命令を発して公社の売渡しを差し止めることをしなかったのであるから、これによって同市に生じた損害を賠償する責任を負う。
7 損害
(一) 国分寺市は、違法な市による売渡しにより、少なくとも、右2のとおりの甲土地に係る時価から右売渡しに係る価格を控除した額に相当する一億七五四一万〇三七六円の損害を被った。
(二) 右5(二)(1)のとおり、国分寺市土地開発公社がその所有する土地を直接私人に譲渡することは違法とされるべきであるから、同公社は、乙土地及び丙土地を啓幸及びきよ子にそれぞれ取得させるに際しては、これらを一旦同市に、業務方法書一二条一項により取得原価に同項各号所定の経費の額を加算した額を価格として売り渡し、その上で同市においてこれらを啓幸及びきよ子に時価によって売り渡すべきであり、かかる適法な方法の譲渡がされていれば、同市は右各土地の公社による売渡し当時の時価の合計額から業務方法書一二条一項所定の価格の合計額を控除した額に相当する額の利益を取得していた。
しかるに、右5(二)(2)のとおり違法な公社による売渡しがされ、かつ、被告がこれを差し止めることを違法に怠ったことによって、同市は、右の乙土地及び丙土地の時価の合計額から業務方法書一二条二項所定の価格の合計額を控除した額に相当する額の得べかりし利益を喪失し、結局同額の損害を被ったものである。
そして、乙土地及び丙土地の右当時の時価は、それぞれ三億二〇〇〇万円(一平方メートル当たり八二万円)及び四億円(一平方メートル当たり一六五万円)を下らず、他方、公社による売渡しに係る右各土地の価格は、右のとおりそれぞれ一億六〇〇五万〇二四〇円(一平方メートル当たり四〇万八〇〇〇円)及び一億一〇一二万六三二〇円(一平方メートル当たり四四万六〇〇〇円)であるから、同市の被った右の損害の額は合計四億四九八三万円を下らないこととなる。
(三) よって、同市は、合計六億二五二四万〇三七六円を下らない額の損害を被ったものというべきである。
8 監査請求
原告らは、平成二年一〇月一日国分寺市監査委員に対し、市による売渡しの事実及び公社による売渡しにつき被告が公社に対する監督権の不行使について監査請求をしたところ、同監査委員は、同年一一月三〇日原告らに対し、市による売渡しの事実に係る監査請求は理由がなく、公社に対する監督権の不行使の事実に係る監査請求は不適法である旨の通知をした。
9 よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、国分寺市に代位して、被告に対し、違法な財産の処分及び違法に財産の管理を怠る事実によって被った損害金合計六億二五二四万〇三七六円及びこれに対する市による売渡し及び公社による売渡しの後であり本件訴状送達の日の翌日である平成三年一月一三日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を国分寺市に支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(当事者)、2(市の財産の処分)及び3(公社に対する監督権の不行使)の各事実はいずれも認める。
2 同4(市の財産の処分の違法)冒頭部分のうち、地方自治法及び国分寺市公有財産規則に原告ら主張の規定があることは認め、その余は争う。
(一)(1) 同(一)(議会の議決を経ていないこと)(1)のうち、地方自治法に原告ら主張の規定があることは認め、その余は争う。
(2) 同(2)の事実は否認する。主張は争う。
(二) 同(二)(適正な対価によらないこと)の事実中、市による売渡しにおける甲土地の価格が八四五八万九六二四円とされたことは認め、その余は否認する。主張は争う。
3(一) 同5(公社に対する監督権の不行使の違法)(一)のうち、公有地拡大法に原告ら主張の規定があることは認め、その余は争う。
(二) 同(二)冒頭部分の主張は争う。
(1) 同(1)のうち、公有地拡大法、国分寺市土地開発公社定款及び同公社業務方法書に原告ら主張の規定があることは認め、その余の事実は否認する。主張は争う。
(2) 同(2)は争う。
(三) 同(三)は争う。
4 同6(責任)(一)及び(二)はいずれも争う。
5 同7(損害)(一)ないし(三)はいずれも争う。
6 同8(監査請求)の事実は認める。
7 同9は争う。
三 被告の主張
1 請求原因4(市の財産処分の違法)について
(一) 国分寺市は、国分寺駅北口市街地再開発事業(以下「本件再開発事業」という。)を推進するため、平成二年三月一五日澤田幹雄から別紙物件目録四及び五記載の各土地(以下「丁土地」という。)を代金四億〇五〇八万円で買い受ける(以下、右買受けを「市による買受け」という。)一方、この代替地として、請求原因2のとおり甲土地を売り渡した(市による売渡し)。
(二)(1) 国分寺市は、東京都総務局長が本件通達を受けて各市町村長及び各一部事務組合管理者あてに発した「市町村公有財産規則準則の送付について」(昭和三九年六月二五日三九総行地発第一四〇号同局長通知)2(6)の趣旨に従い、国分寺市不動産評価審査会規程(昭和四三年一二月三日訓令第六号)を定めて、同市が不動産の取得又は処分等に係る価格について適正な評定をすることを目的とする国分寺市不動産評価審査会(以下「審査会」という。)を設置しており、同審査会は、会長(助役)及び副会長(企画財政部長)並びに委員(総務部長、建設部長、都市整備部長、開発部長、総務部管財課長、同部課税課長、用地渉外担当参事、駅周辺整備担当参事及び建設部用地渉外担当主幹)によって構成されている。
(2) 市による売渡しの価格の評定に係る審査会は、平成二年二月二七日開催され、会長及び副会長のほか、総務部長、建設部長、都市整備部長、開発部長、総務部管財課長及び同部課税課長の各委員が出席し、建設部用地課長が会議の事務を担当した。
右審査会においては、市による買受けに係る価格については、丁土地の鑑定価格が一平方メートル当たり五七五万円と評価されているにもかかわらず、これよりもかなり低廉な一平方メートル当たり五二〇万三〇〇〇円以内とし、その一方において、市による売渡しに係る価格については、不動産鑑定士による鑑定評価を行うことなく一平方メートル当たり五三万六五七二円以上とする旨の決定がされた。
しかして、市による売渡しに係る価格は、右のとおり市による買受けに係る価格との間で総合的な判断を行って評定されたものである。右価格について不動産鑑定士による鑑定評価はされていないが、審査会委員には、職務上同市内の土地の時価の相場を把握している者が多いことから、右審査会においては甲土地及び丙土地の時価を踏まえた判断がされたものである。
(三) 被告は、平成二年三月六日同市議会(同年第一回定例会)に、市による売渡し及び市による買受けに係る歳入歳出項目を計上した補正予算(以下「本件補正予算」という。)を提出し、右補正予算は、同月八日同市議会総務委員会において審査されたところ、同委員会は、同日の会議の時間の大部分を費やして市による売渡し及び市による買受けに係る価格について討論した。その討論は、右の双方の価格につき一括して行われた。審査の結果、本件補正予算は、賛成多数で可決された。
次いで、同月一四日に開催された同市議会本会議において、同委員会委員長が右審査の経過を報告し、引続きこれに関する質疑が長時間にわたって行われ、その結果、本件補正予算は賛成多数で原案のとおり可決された。
(四) このように、市による売渡しに係る価格については、審査会及び同市議会が、関連する市による買受けに係る価格と総合的にこれを把握した上、適正な対価と判断したものであるから、地方自治法二三七条二項の適正な対価によったものというべきである。
(五)(1) また、右(三)の議会における審査の経緯に鑑みれば、市による売渡しについて同項の個別の議案が提出された場合も右と同様の議論を経て議決がされることとなるものというべく、右のような詳細な討論、質疑の結果本件補正予算が可決されたことからすると、市による売渡しについて、実質的には同項のいう議会の議決がされたものというべきである。
(2) 原告の指摘する本件通達は、財務に関する地方公共団体の組織及び運営の合理化を図ることにより、地方公共団体における行政の能率と公正を確保することを基本的なねらいとする地方自治法の改正に伴って発せられたものであるところ、右(三)の議会の審査は相当程度具体的にされているから、市による売渡しに関する議会の議決については本件通達の趣旨は十分に達成されているものというべきである。
2 請求原因5(公社に対する監督権の不行使の違法)について
(一) 公有地拡大法上、設立団体の長に、土地開発公社のした個々の取引行為を差し止める具体的な権限が付与されているかどうかは明らかでないが、仮にかかる権限が同法によって付与されているとしても、そのことのゆえに、同法が設立団体の長に対し土地開発公社の個々の取引行為を差し止める具体的な義務を課していると解することはできないというべきである。
(二) 同法一九条一項に基づく設立団体の長の監督権限は、行政上の監督権限であるから、その権利を行使すべきかどうかの審査は、財務会計上の行為を対象とする住民訴訟にはなじまないというべきである。
(三) 国分寺市土地開発公社業務方法書は、同公社定款一八条に基づき同公社の運営に関し必要な事項として定められたものであり、同業務方法書一一条は訓示規定であると解すべきであるから、市による売渡しのように公共事業用地の代替地として公社の所有に係る土地を私人に譲渡しても、これをもって違法ということはできない。
3 請求原因6(責任)について
被告は、市による売渡しに係る価格が右1(二)及び(三)のような審査会及び同市議会の審査を経て決定されたところから、かかる審査の結果を信頼して右売渡しに係る契約を締結したものである。したがって、被告には右契約締結につき過失がないというべきである。
4 請求原因7(損害)について
国分寺市土地開発公社業務方法書一一条によれば、同公社の所有する土地は、同市のほか、国、地方公共団体又はその他の公共的団体へ譲渡するものとされており、同市以外の者に対する譲渡を認めているから、同業務方法書の定めるところに従えば甲土地が必ず同市に譲渡されることを前提として、被告が公社による売渡しを差し止めなかったことにより同市が損害を被ったとする原告らの主張は、その前提において失当である。
四 被告の主張に対する原告らの反論
1 被告の主張1(五)について
一般に、地方公共団体の議会においては、個別の議案は、提出に際しその内容や提案の理由が明らかにされるが、予算(補正予算を含む。)は、多岐にわたる項目を包含しており、その提出、審査は行財政運営の全体的、基本的な方針の当否や整合性に主眼が置かれ、これに対する議決は、その全体としての趣旨を尊重するという観点から一括してされるのが通常であり、国分寺市議会もその例に洩れない。
そして現に、本件補正予算の審査においても、市による売渡しについては議案書に歳入項目及び歳入金額の表示がされたにとどまり、売渡しに係る土地及びその面積、相手方並びに価格や、適正な対価によらない理由が明らかにされないまま提出され、議員の追及によってそれらの事項のうちの若干が判明したものの、結局、売渡しに係る土地やこれに関する時価と売渡価格との差額は不明のまま、補正予算として一括した議決がされたものである。
しかして、請求原因4(市の財産処分の違法)(一)(議会の議決を経ていないこと)(1)のとおり、地方自治法二三七条二項の議決があったとされるためには譲渡に係る財産ごとの個別の議案が提出され、これについて議決がされることを要するものと解すべきであるところ、被告の主張する補正予算に対する議決は、右のとおり補正予算につき一括してされた議決であり、しかも、個別の議案として提出された場合であれば明らかにする必要のある事項が明らかにされないままにされた議決であるから、かかる議決がされたからといって、市による売渡しについて右規定による議決があったものとすることはできない。
2 被告の主張2について
(一) 請求原因5(公社に対する監督権の不行使の違法)(一)のとおり土地開発公社の行為によって地方公共団体の財政、財務に関する諸般の規制が潜脱され、設立団体の財政的基盤が危うくされる虞があることに、公有地拡大法上設立団体の長の実質的な支配権が土地開発公社に及ぶことが予定されており(同法二六条一項が設立団体の長等がその管理に係る施設を無償で土地開発公社の利用に供することを認めているのも、右のような見地に基づくものというべきである。)、設立団体の長がかかる支配権を濫用して財政民主主義による民主的統制を免れようとし、その結果地方公共団体の財政的基盤が危殆化される事態があり得ることを併せ考えると、設立団体の長が土地開発公社に対し監督権限を行使することをもって地方公共団体の財産の管理行為と解し、その不行使は地方自治法二四二条一項の財産の管理を怠る事実に当たると解しなければ、公有地拡大法は、地方自治の本旨である財政民主主義に反し、日本国憲法(以下「憲法」という。)九二条に違反するに至るものというべきであるから、地方自治法の右規定及び公有地拡大法については右のような解釈をとるべきである。
(二) 一般に、法人格が全くの形骸に過ぎない場合、又はそれが法律の適用を回避するために濫用されるといった場合においては、当該法律関係についてかかる法人格は否認されるべきものと解され、土地開発公社であっても法律に基づいて法人格が付与されているという点においてはその他の一般の法人と異なるところはないこと、右(一)のとおり土地開発公社に付与された独立の法人格が濫用され財政民主主義が害される虞があることに鑑みると、右の法理は、土地開発公社についても等しく当てはまるものと解すべきである。
これを本件についてみると、請求原因6(責任)(二)のとおり国分寺市と同市土地開発公社との一体性は強度であり、被告の実質的な支配権が同公社に及んでいたところ、被告は、このような事情を背景として、本来その業務方法書の定めによればその所有に係る土地は市に売却しなければならないにもかかわらず、一旦市にこれを売却した後に私人に廉価で転売する場合に適用を受けることとなる地方自治法二三七条二項等の法令による規制を潜脱するために、ことさら乙土地及び丙土地を公社において直接私人に売り渡したものである。このように、公社による売渡しは、被告において、同公社が同市とは独立に有する法人格を濫用してこれをしたものであるから、これに関する法律関係においては、同公社の法人格は否定されるべきであり、その所有する右各土地は、国分寺市の財産とみなされ、その管理は地方自治法二四二条一項の財産の管理に当たることとなるものと解すべきである。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1(当事者)、2(市の財産の処分)、3(公社に対する監督権の不行使)及び8(監査請求)の各事実は当事者間に争いがない。
二公社に対する監督権の不行使に係る訴えの適否について
1 原告らの被告に対し金四億四九八三万円及びこれに対する遅延損害金を国分寺市に支払うことを求める訴えは、被告が公社による売渡しを差し止めなかったことが財産の管理を違法に怠る事実に当たるとして、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、右事実によって同市が被ったとする損害の賠償を求めるものである。
しかして、同条に定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであって、その対象とされる事項は、同法二四二条一項所定の財務会計上の行為又は事実としての性質を有する事項に限られるから、右訴えが適法とされるためには、その主張に係る公社による売渡しを差し止めることが同項に定める財務会計上の行為としての財産の管理に該当し、これを怠ることが同項にいう財産の管理を怠る事実に当たらなくてはならないこととなる。
2 よって検討するに、公有地拡大法によれば、地方公共団体(設立団体)は、地域の秩序ある整備を図るために必要な公有地となるべき土地等の取得及び造成その他の管理等を行わせるため、土地開発公社を設立することができ(同法一〇条一項)、土地開発公社は、法人とされ(同法一一条)、右目的を達成するため、土地の取得、造成その他の管理及び処分等、同法一七条一項各号所定の業務を行うものとされている(同項)。設立団体と土地開発公社との関係については、設立団体の長は、土地開発公社の役員(理事及び監事)を任命し(同法一六条一項、二項)、役員に職務上の義務違反その他役員たるに適しない非行があると認める場合等にはこれを解任することができ(同条三項)、土地開発公社の業務の健全な運営を確保するため必要があると認めるときは、土地開発公社に対しその業務に関し必要な命令をすることができるものとされている(同法一九条一項)。他方、土地開発公社は、毎事業年度、予算、事業計画及び資金計画を作成し、その事業年度の開始前に設立団体の長の承認を受けなければならず、これを変更しようとするときもまた同様であり(同法一八条二項)、毎事業年度の終了後二か月以内に、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び事業報告書を作成し、監事の意見を付けてこれを設立団体の長に提出しなければならないものとされている(同条三項)。
右各規定に、地方公共団体に代わって土地の先行取得を行なうこと等を目的とする土地開発公社の創設その他の措置を講ずることにより、公有地の拡大の計画的な推進を図り、もって地域の秩序ある整備と公共の福祉の増進に資するという同法の目的(同法一条)を綜合すると、同法が、地方公共団体に右の同法一条、一〇条一項に定めるような目的を有する土地開発公社の創設を認めた趣旨は、地方公共団体が歳出歳入予算とは別個に予算に計上することを要する継続費及び繰越明許費のほかは各会計年度における歳出についてその年度の歳入のみをもってこれに充てなければならないものとされているため(地方自治法二〇八条一項、二一二条、二一三条)、かかる制約を受けることのない権利義務主体を設け、当該権利義務主体に、右制約を離れた特性を活かし、自己の計算において計画的に、かつ機に臨んで的確に公有地となるべき土地を取得させ、もって、地方公共団体が公有地を取得することを容易にさせることにあるものと解される。
以上のことに鑑みると、公有地拡大法は、土地開発公社の予算、収入、支出、財産等の財務を設立団体のそれとは截然と分離し、土地開発公社自らにおいてこれを管理させることとし、ただ、土地開発公社が右のような目的を有し、その基本財産の全額が設立団体その他の地方公共団体の出資に依拠すること(同法一三条)等を考慮して、設立団体の長に、土地開発公社の健全な運営を確保するために必要な限度において、右のような下級行政機関に対する指揮監督権にも類する各種の監督権限を付与したものというべきである。したがって、同法一九条に基づく設立団体の長の命令は、一般行政上の権限によるものというべく、これをもって財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為ということは到底できない。
そうすると、原告らが被告の財産の管理を違法に怠った事実に当たると主張する、右命令を発して公社による売渡しを差し止めなかったとの事実は、財務会計上の事実としての性質を有する財産の管理を怠る事実に当たらないから、右事実による損害賠償を求めるとする前記の訴えは、地方自治法により特に出訴の認められた類型に該当せず、不適法である。
3(一) 原告らは、土地開発公社の行為によって地方公共団体の財務に関する規制が潜脱される虞があること等からすれば、設立団体の長の監督権限の不行使をもって住民訴訟の対象となる財産の管理を怠る事実に当たると解さなければ公有地拡大法は憲法九二条に違反することとなる旨の主張をする。
しかしながら、まず、公有地拡大法は、右2に判示したような趣旨、目的に基づいて、土地開発公社の財務を地方公共団体のそれから分離して土地開発公社自らがこれを管理することとし、設立団体の長は専らこれを一般行政上の見地から監督することとするものである。そうであるとすれば、同法に基づく土地開発公社に関する制度の建前上、その業務に関する規制が設立団体の長の行政上の監督権限による範囲に止められ、これに対する住民の統制は、地方自治法の定める直接請求による以外には、究極的には長に対する政治的批判にまつほかはないこととすることも、優に憲法九二条にいう地方自治の本旨に適合するものというべきである。
また、住民訴訟の制度は、住民参政の一環として住民に対し、地方公共団体の長若しくは執行機関又は職員の財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであって、行政事件訴訟法五条にいう民衆訴訟に当たり、法律に定める場合において、法律に定める者に限りこれを提起することができるものである(同法四二条)。そうすると、かかる訴訟制度を設けるかどうかは挙げて立法政策に委ねられているところであり、これを設けず、又はその適用される範囲を限定したからといって、憲法九二条に反することとなる余地はないというべきである。
したがって、原告らの右主張を採用することはできない。
(二) 原告らはまた、法人格が法律の適用を回避するために濫用された場合等においてこれが否認されるべきであるとの法理は土地開発公社についても当てはまると主張し、右主張を前提として、公社による売渡しは被告が国分寺市土地開発公社の法人格を濫用してこれをしたものであるから、これに関する法律関係については同公社の法人格は否認されるべきである旨の主張をする。
しかしながら、右のような法理が土地開発公社についても当てはまるものと解する余地がないとはいえないとしても、公有地拡大法が、自ら、右2に判示したような目的を達成するため一般的に有用かつ必要であるとして、地方公共団体がこれを設立することを認め、これに法人格を付与することとした土地開発公社に対し、かかる法理の適用によりその法人格を否定することは極めて例外的な場合にのみ考えられるものと解するのが相当である。
しかして、原告らが国分寺市土地開発公社の法人格を否認すべき根拠として主張する事由は、要するに、設立団体の長である被告が地方自治法の適用を回避するために同公社の法人格を濫用したというものであるところ、右一に判示したとおり、公有地拡大法上、設立団体の長の土地開発公社の業務に対する監督、関与については、設立団体の住民は、地方自治法の定める直接請求による以外には、長に対する政治的批判を通じてこれを統制するほかはなく、かつ、もとよりそのような制度も優に憲法九二条に適合すると解されることに鑑みると、右のような事由をもって、土地開発公社の法人格を否認しなければならないほどの例外的な事由とは到底認めることができない。
よって、原告らの右主張は失当であり、これを採用することはできない。
三市による売渡しに係る請求について
1 原告らは、市による売渡しは地方自治法二三七条二項の条例又は議会の議決による場合でないにもかかわらず適正な対価なくしてされたものであるから違法である旨の主張をする。
同項は、普通地方公共団体の財産の交換、出資及び支払手段としての使用のような財産の処分行為を条例や議会の議決によらない限り絶対的に禁止しているから、その理は、同じく処分行為である譲渡や貸付けについても同様であるはずであるが、譲渡や貸付けについては、適正な対価によるものがあり得、それが授受されれば、普通地方公共団体に財務会計上損害を与えることにならないので、そのような場合を除外したものと解されること並びに適正な対価によるものであるかどうかの判断は、必ずしも常に一義的に明らかになるとはいい難い評価に依存するものであること、以上のような点に鑑みれば、同条項は、財産の譲渡や貸付けについても、原則としては、条例や議会の議決によるべきものとし、例外的に適正な対価によるもののみをこれによらないでも差し支えないこととしたものと解される。
そこで、まず、本件の市による売渡しが、右にいう条例又は議会の議決によっているかどうかを検討する。
2 国分寺市において、市による売渡しに適用されるような右の条例の規定は存在しないことが明らかである。
地方自治法の右規定が、普通地方公共団体の財産の適正な対価によらない譲渡又は貸付けを、条例と並んで議会の議決にかからせた趣旨は、適正な対価によらない財産の譲渡又は貸付けは、地方公共団体の財産の実質的な減少をもたらすものであって、その財政的基盤を脆弱にする危険があるところから、特にかかる譲渡等をすることが必要であるかどうか、妥当であるかどうかについて議会に審査をさせ、その結果議会の議決が得られた場合に限ってこれを許すこととするという点にあるものと解される。
そうであるとすれば、右各規定にいう議会の議決があったとされるためには、適正な対価なくしてされる譲渡または貸付けにつき議会においてその必要性、妥当性についての審査を経て議決がされることを要し、かつ、そのことをもって足りるというべきであるから、その議決が、譲渡又は貸付けについての議決を求める個別の議案に対してされるか、譲渡又は貸付けに係る歳入歳出項目が計上された予算(補正予算を含む。)に対してされるか、また、議決事件のうち、譲渡又は貸付けに係る部分のみを対象としてされるか、その余の部分と一括してされるかを問わないものと解される。
原告らは、議会が右の議決をするには、譲渡が真に必要、適切であるかどうかを判断するために必要な資料が議会に示されていなくてはならないとし、そのような立場から、右の議決があったとするためには、譲渡に係る財産ごとに、その財産、譲渡の種類、相手方、数量及び金額並びに適正な対価によらないにもかかわらずこれを譲渡すべき必要性等を具体的に特定された議案が提出され、これについて議決がされなければならないとの主張をする。確かに、譲渡又は貸付けの必要性、妥当性の審査に資する資料が議決事件の提出に際しその地方公共団体の長によって提供されることは望ましいことであるが、右のとおり地方自治法二三七条二項の議会の議決の前提としては実質的に右の審査を遂げることをもって足り、そのためにどのような資料がいかなる経緯によって議会に提供されたか、あるいは提供されなかったかは、右議決についての手続要件となるものではなく、もとよりその適法性を左右するものとはいえないから、右主張はその前提において採ることを得ない。
また、原告らは、右主張の根拠として本件通達第二の二エが、地方自治法九六条一項六号の「議決」について「個々の事案ごとに議会の議決を経るものとしたこと」としていることを挙げるが、<書証番号略>によれば、右通達は地方自治法の一部を改正する法律(昭和三八年法律第九九号)等の公布に際し自治事務次官において各都道府県知事に宛てて発した通達であることが認められるのであって、右通達は、右法律による地方自治法の改正の趣旨や改正後の地方自治法の施行について留意すべき事項に関する一般的な訓示、説明をする趣旨を出るものではないというべきであるから、本件通達に右の定めがあるからといって、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項を原告らの主張のように解さなくてはならないものではない。
3 右に判示したところを本件についてみると、本件全証拠によっても、市による売渡しにつき地方自治法二三七条二項の議会の議決を経なかったものとは認められない。かえって、<書証番号略>並びに証人福島弘及び同川合洋行(後記採用しない部分を除く。)の各証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 市による売渡しの代金に係る歳入は土地売払収入として、市による買受けの代金に係る歳出は公有財産購入費として、それぞれ平成元年度国分寺市一般会計補正予算(第五号)(本件補正予算)に計上され、同補正予算の議案書中「第一表歳入歳出予算補正」に、前者につき「(歳出)」「款 11.財産収入」「項2.財産売払収入」「目1.不動産売払収入」「補正額300,195(補正前の額)(241,334)(計)(541,529)(千円)」「節 区分1.土地売払収入金額300,195(千円)」「説明1.市有地売払収入(管財課)300,195(千円)」との、後者につき「(歳出)」「款8.土木費」「項3.都市計画費」「目2.駅周辺整備費」「補正額391,283補正前の額(1,590,950)計(1,982,233)(千円)」「補正額の財源内訳 特定財源 国都支出金-343,950 地方債800,000 一般財源-64,767(千円)」「節 区分17公有財産購入費 金額800,000(千円)」「説明4.国分寺駅周辺整備事業に要する経費(国分寺駅) 17.公有財産購入費(800,000) 用地買収費800,000(千円)」との各記載がある。本件補正予算は、平成二年三月六日付けで国分寺市議会同年第一回定例会に提出された。
(二) 本件補正予算は、同月八日に開催された同市議会総務委員会において審査され、可決された。同委員会は、同日午前九時三〇分ころ開会され、途中休憩を挟んで夕刻閉会されたが、そのうち約四時間が市による売渡し及び市による買付けに係る歳入歳出についての質疑、討論に費やされた。同委員会においては、一名の委員が市による売渡し及び市による買受けの各代金額決定の根拠を中心に質疑をし、市による売渡しは、その代金額が公示価格からみた土地の市場価格の趨勢に適合しないから同市公有財産規則三九条に違反するとの自己の見解を表明し、市当局側に対し右根拠を明らかにするよう求めた。これに対し、市当局側は、市による買受けについては不動産鑑定士による鑑定評価を行い、これに準拠して代金額を決定したが、市による売渡しについては国分寺市土地開発公社が昭和五五年に甲土地を買い受けた際の価格が判明していたことから、これに利息に相当する金額や管理費等の金額を加算した額によって代金額を決した旨、「買う八億円についても地主の言い値ではない」「再開発推進のための総体的な判断である」旨、市が土地を買い受け、その代替地を売り渡す際にはできる限り双方の価格の均衡を保つように調整しなければならないが、本件の市による売渡し及び市による買受けの代金額については本件再開発事業を推進するための政策的な価格である旨、市による買受けに係る土地(丁土地)は右事業の一環として国分市駅駅北口の暫定広場等を建造するために急いで取得するものである旨、それぞれ答弁をした。その過程において、結局市による売渡しに係る土地(甲土地)が同市本町四丁目に所在し目下自転車置場として使用されている土地であること、その面積及び右売渡しに係る一平方メートル当たりの価格のほぼ正確な数値が明らかにされた。このような質疑及びこれに対する答弁は、市による売渡し及び市による買受けの双方の問題を包括して行われた。
(三) 本件補正予算は、平成二年三月一四日開催された同市議会本会議において審査され、可決された。同本会議においては、その冒頭に総務委員長が右(二)のような同委員会における審査の経過について報告をし、その後、主として一名の議員が、右審査の内容のほか、市による売渡しの代金額の決定に当たり鑑定評価が行われたかどうか、行われなかったことについて特別の理由があるかどうか等の点につき質疑をし、市による売渡しは同市公有財産規則三九条に違反するとの見解を表明した。これに対して市当局側は、右の鑑定評価は行っていないことを明らかにし、それにつき特別の理由はない旨、審査会における代金額の決定も売渡しの価格と買受けのそれとの双方を同時に審査したという経過を踏まえて理解されたい旨、それぞれ答弁した。このような本会議における質疑及びこれに対する答弁も、右と同様に、市による売渡し及び市による買受けの双方の問題を包括して行われた。
以上の事実が認められ、右認定事実によれば、市による売渡しについては、その代金に係る歳入項目が計上された補正予算が同市議会に提出され、右補正予算の審査においては、本件再開発事業の推進を図る見地から特に市による買受けの代金額と関連させてその代金額を決定するとの市当局側の見解と、これに反対する議員の見解とがこもごも表明された上で、売渡しに係る土地の所在及び使用状況の概略、面積、一平方メートル当たりの価格といった事項が明らかになるに至ったものであって、このことに、一般に地方公共団体と私人との間の契約に関する事項の詳細をその執行機関が議会においてどの程度明示すべきかについては相手方との信頼関係の保持や相手方のプライバシーの保護の見地からの制約を受けざるを得ないことを併せ考えれば、右認定の本件補正予算の審査の経過は、これをもって財産の譲渡についての必要性、妥当性の審査が遂げられたものとするのに十分であるといわなければならない。そうであるとすれば、右のとおり、かかる審査を経て本件補正予算が可決された以上、市による売渡しは、地方自治法二三七条二項の議会の議決がある場合に当たることとなる。
4(一) <書証番号略>及び証人川合洋行の証言によれば、国分寺市において、地方自治法二三七条二項の議会の議決を求める事件につき、これを個別の議案とし、その議案書には同法九六条一項六号により議会の議決を求める旨を明示した例もあることが認められるが、それが同市の慣例となっているという事実までを認める証拠はない上に、右の議会の議決については前記2に判示したように解すべきであり、右のような事例があったからといって、同法の右各規定の要件が加重、変更される余地はないから、これをもって、右3の判断が左右されるものではない。
(二) 証人川合洋行の証言中には、右総務委員会及び本会議における本件補正予算の審査は、予算審査の名に値せず、まして市による売渡しについて地方自治法二三七条二項の議会の議決があったとすることはできない旨の右3の認定に反する供述部分があるが、これは、その趣旨からして、右規定の議会の議決について前記2に判示したところと異なる独自の見解に基づく意見を述べたものであることが明らかであるから、採用の限りではない。
(三) また、同証言によれば、本件補正予算のような多数の項目からなる事件は通常その包含する項目を一括して議決されること、議員においてそのうちのある項目には賛成であるがその余については反対であるという場合にも、全体に対する賛否をいずれかに決して議決権を行使するほかはないことが認められるが、かかる場合にあっても右認定事実自体から明らかなとおり、事の軽重を斟酌して、事件につき一括してされる議決において賛否のいずれかに決し得ることはいうまでもなく、その限り財産の適正な対価によらない譲渡又は貸付けに係る事件に対し賛否いずれかの態度をとることも当然可能であるから、右認定事実は何ら右3の判断を左右するものではない。
5 そうすると、市による売渡しに係る請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。
四結語
以上によれば、本件訴えのうち、被告に対し公社に対する監督権の不行使に係る損害金四億四九八三万円及びこれに対する平成三年一月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えは不適法であるからこれを却下することとし、原告らのその余の訴えに係る請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官喜多村勝德 裁判官長屋文裕)
別紙物件目録
一 東京都国分寺市本町四丁目二八一〇番九四
宅地 157.64平方メートル
二 同市本多一丁目三九二番一〇
宅地 392.28平方メートル
三 同市本町四丁目二八二三番一〇
宅地 246.92平方メートル
四 同所三丁目二七二二番一〇
宅地 76.07平方メートル
五 同所二七二二番一一
宅地 1.24平方メートル